第6回勉強会レポート

解決に向けて

NPO法人 脳外傷友の会ナナの協賛で、平成15年12月14日(日)に交通事故勉強会が開催されました。交通事故によって、重度の後遺障害を負った被害者が取るべき行動や心構えについて、また最新の判例について、当会の北原浩一代表が講義を行いました。

2003年(平成15年)12月14日(日) AM9:00~12:00
府中市片町文化センターにて
講師:北原 浩一

1、交通事故解決の目的

事故以前の健康な人生を取り戻したい。経済的な本人の生活と家族生活の回復。

2、交通事故に対する認識

まずは、交通事故というものが、無責任運転で他人の人生を破壊する犯罪であることを正しく認識するべきである。(刑法第211条、業務上過失致死傷罪。刑法第208条の2、危険運転致死傷罪。業過は5年以下、危険運転は1年以上15年以下)。

3、交通事故被害者と福祉

福祉による救済は国民の税金などの負担による救済であるため水準が低い。多数の国民が自分の年金さえもあてに出来ないと考えていて、福祉の為の増税や保険料の増加に反対している。従って、福祉による障害者の救済は厳しいものがある。国の財政は600兆円を越える借金財政だから、財政立て直しのため今までの補助金さえも切り詰められる現状である。

4、交通事故と賠償

交通事故犯罪による障害者は事故過失割合に応じて加害者から民法第709条以下の規定に基づき損害賠償を受取り、生活の回復を行なうことになる。現実には加害者の賠償責任を営利事業として引受けている損保会社が支払わうことになり、国民に負担をかけてない。その賠償金の水準は被害者の元の生活水準を取戻すものであり、逸失利益や介護費用の他に慰謝料なども含まれる。その金額は、福祉は年金なのに対し、一生涯分を一時金で受取るから大金に見えるが、年5分の利息が付くものと見なしてライプニッツ係数で利息分を減額されている。

5、損害を取り戻すためには

被害者は意識不明や高次脳機能障害で事故真実説明困難。加害者は我身を守る本能で責任を逃れる主張をする。事故を見てない警察は加害者に有利で不公平な調書作成する場合も多い。警察の仕事は事故原因を調べることであり、被害者の被害回復を行うことではない。調書を基に、被害者自身が民事事件解決する他ない。そのためには、法律を改正して警察の捜査記録を被害者に早期に開示すべきである。

6、正当な賠償を取り戻せる弁護士は少ない

調書が正しいと見なしたり、医者の診断書が正しいと見なし、赤い本を見るだけでも事件は解決出来る。加害者の嘘や、症状を大雑把にしか書いていない診断書を訂正することが出来て、事故や身体障害の事実を反映した、新しい判例を作ることができる弁護士は少ない。裁判は当事者主義、自由心証主義だから、自分が正しいと信じたことは証拠で立証する必要がある。

7、諸制度の改善

我々は、お互いに助け合って損害回復を行ない、事故を少なくする為の諸制度改善を求める市民活動をしている。孤立しては損害回復は出来ず、不公平調書や被害者が無視される諸制度は変わらない。自分だけ助かれば、他人はどうでも良いと言う利己的な考えでは自分も救えない。

1999年に自賠責保険制度改善を求めて「全国交通事故後遺障害者団体連合会」を結成し、「全国交通事故遺族の会」と協力して街頭署名行うなど、体を張って活動し、国に働き掛けて自賠責保険で高次脳機能障害の認定の仕組みを作った。

その結果、自賠責保険金は1級3号と4号は3000万円から4000万円に、同2級は2590万円から3000万円に改善した。事故対策センターの介護料補助金は1級3号と4号だけから同2級にも範囲が広がった。累積していた運用益の約半分である9000億円を重度障害者救済の基金にした。

今後は、交通事故を減らすため加害者の刑罰を重くする必要もあり、役人任せにせずに国に働きかける必要がある。

8、交通事故を減らし被害者救済の充実の為の市民活動の発展を。

2001年6月に、現在の理事中心に「交通事故後遺障害者家族の会」を設立し、今年2003年にはNPO法人として認証を取った。目的は会の信用度を上げて会を発展させ、諸制度改善の促進や多くの被害者救済を行なう為である。

9、正当な損害賠償を取る為に

事故真実と損害を明らかにする必要がある。まずはメモや写真、事故車両等証拠となるものの保存が必要である。被害者の障害の実状を詳しく医者に伝える必要もある。それらの証拠がないと、裁判では立証が出来ずに、正しくても負ける。

10、事故のすべてを把握している立場の者

事故の日から現在までの出費、加害者の主張、警察の説明、病状の推移など、最も詳しいのは家族である。自分の事故解決に対しては、積極的に当事者が説明する必要がある。

11、事例について学ぶ (自賠責保険障害等級が決まれば、損害総額は予測出来る)

(1) 横浜地裁川崎支部、平成15年7月15日判決。
控訴審で和解。平成3年の事故、平成8年に自賠責保険併合5級で賠償4230万円で示談した。他の弁護士は相手にしなかった事件。弁護士を紹介し、弁護士の指導で障害等級を併合1級に変更し訴訟した事件。

(2) 横浜地裁、平成15年5月14日判決。
弁護士の指導で併合1級を取り、判決で1億9700万円の賠償を計算する事件。既に受取った自賠責3000万円を加算すると2億を越える。普通の弁護士だと3級しか取れず、介護料も認めさせることが出来ないと評価。

(3) 千葉地裁、平成14年5月29日判決。
最初の弁護士が6500万円受諾を強要していた事件。弁護士を解任し、別の弁護士で訴訟して1億3000万円の賠償金となった。弁護士により大きな違いが出る。

(4) 横浜地裁、平成14年9月25日判決。
無保険車事故。最初行政書士に依頼していた事件。無保険車事故の知識は皆無。弁護士を変えさせ1億7000万円の賠償となった。

(5) 東京地裁八王子支部、平成14年7月4日判決。
事故時25才の男性。(外見は健常者。少しどもる程度)。自賠責保険3級3号。損保の提示額は3000万円予想。民事訴訟で自賠責保険を含み裁判所認定損害総額は1億8045万円。家族介護料日額6000円。自賠責保険3級で介護料4000万円を認めさせることは珍しい。

(6) 青森地裁、平成13年5月25日判決。
事故時60才の農家の主婦。自賠責保険併合1級。損保の提示額は自賠責保険を含み3239万円。民事訴訟で1億5600万円。職業介護人介護料日額8566円(東北の田舎のため安い)。家族介護料日額6000円。