交通事故の民事裁判

自賠責等級認定も終わり、被害者請求により、当座の資金を確保したなら、いよいよ民事裁判です。民事裁判で注意すべきことは、まず感情的にならないことです。

特に保険会社側からの主張はまったく承服しかねるものばかりです。隠し撮りをして都合がよい映像のみ主張するというのもよくあるやり方です。しかし、こういった訴訟活動は、保険会社側から言えば、いつものことです。かれらのこういった手口に一喜一憂していては、裁判中に被害者家族が疲れ果ててしまいます。かれらは毎日のように訴訟をしているプロ集団です。

交通事故など一生に一回あるかないかの被害者にとっては、彼らの態度は許せないものであること多いのですが、そういった部門は担当してもらう弁護士に任せればいいのです。大事なのは裁判官にどうやって、被害の実情を認識してもらうかです。判決を出すのは裁判官です。保険会社ではありません。

陳述書

民事裁判は、ほとんどが被害者側弁護士が提出する準備書面と加害者側が提出する準備書面での争いに終始します。被害者家族が発言する場などほとんどありありません。

しかし、唯一被害者側から裁判官に訴える方法がありあます。それが「陳述書」です。難しい言葉を使う必要はありません。家族側から訴えたいことがあるとき、保険会社の主張に異議があるときなど、必要に応じて提出すべきです。回数やページ数に制限などありませんが、わかりやすく端的に書くことが必要です。

弁護士

民事裁判の結果は担当した弁護士により大きく左右されるます。賠償総額2倍程度の差は普通に存在すると思って間違いありません。

しかし交通事故訴訟において、十分な知識を持った弁護士は数が少ないのが現実です。知り合いの紹介や、弁護士会の紹介などいろいろと方法はありますが、やはり一番安心できるのは実績をもった弁護士とめぐり合えることです。

そして弁護士といえどもピンキリです。もし期待はずれの弁護士に当たっててしまうと、思うように進まない、納得がいかない結果、高い報酬請求となってしまいます。また、弁護士は一度依頼してしまうと簡単には別の弁護士に乗り換えられないという現実も知っておいてください。

そして優秀な弁護士と知り合えたからといって安心してはいけません。なぜなら、医師と同様、いくら優秀な弁護士でも、被害者本人の事故前の状況を知るすべはなく、現状の後遺症との比較はすべて家族からの訴えによらざるをえないからです。被害者家族は、担当弁護士に被害者本人の後遺症について徹底的に説明する必要があります。

料理に例えるなら、どんなに切れ味の良い包丁(弁護士)を持っていたとしても、調理人(依頼者)がしっかりしていなくては、おいしい料理はできません。優秀な弁護士であればあるほど、被害者の訴えに応えてくれるものです。

被害者からの訴え方や証拠の素材のそろえ方は被害者のノウハウでありこれは先輩からの情報や各人が知恵を絞って出していく種類のものです。弁護士との二人三脚が大事なのです。

保険会社側の立証活動

冷静に紳士的に戦うことが肝心です。

保険会社の立証活動はそれはすさまじいものです。ほとんどの被害者の家族の方は、この保険会社の訴訟態度に参ってしまいます。しかし、当会では、このような保険会社の訴訟態度には慣れっこになっている方々も多数在籍しております。お怒りの気持ちは良くわかります。

そんなときは当会の掲示板や会員のメーリングリストでご相談下さい。同じ目にあった被害者家族の方々から、経験にもとづいた返答や対応法が返ってくるはずです。「ひどい」「考えられない」等言われても保険会社にとっては、痛くもかゆくも無いのです。

証人尋問

民事裁判の山場といっても過言ではありません。加害者側、被害者側がお互いに出頭を命じた人間を尋問します。裁判官それを聞いて、事の信憑性をはかっていきます。それらは当然判決に影響を与える内容となります。しかし百戦錬磨の保険会社側の弁護士はたくみに尋問をしてきます。

このとき決してあせらないことです。被害者家族が苦労して探し出してきた優秀な弁護士であるならば、助け舟も出してくれます。また、介護の大変さなど分かってもらうのは裁判官です。保険会社の弁護士に説明するのではなく、裁判官に訴えるつもりで尋問を受けるよう心がけてください。

また当会では、地理的条件が合う限り、被害者の証人尋問時には応援傍聴を行っています。裁判官も人間ですから、がらがらの傍聴席より多少なりとも傍聴席に人が座っているほうが緊張感が違います。また、これから訴訟という方の証人尋問の勉強がてら傍聴されている方も多くおられます。当会ではこのような活動も行っているのです。

裁判官による判決の格差

つらい民事裁判をたたかってきていよいよ判決となります。今までの苦労が報われる瞬間なのですが、安心してはいけません。地域によって、同じ内容の損害賠償でもその金額に開きがあるのです。地域間格差は憲法違反にあたり、あってはならないことなのですが、今の日本の司法の場では平然と行われています。こういった実情もよく踏まえておかないと、いけません。優秀な弁護士であれば、そういった格差の存在を十分に理解しているので、訴訟の方向性も的を得ております。

損害費目-請求しなければ払わないそれが民事裁判の原則です。

請求損害費目の責任は被害者側にあります。損害賠償訴訟では請求できる損害費目は多岐にわたります。慰謝料はもちろんのこと、逸失利益、介護費用、車椅子代、車の改造費、家屋改造費、弁護士費用、ベッド代等その項目は多数あります。特筆すべきは、遅延損害金の存在です。

損害賠償の訴訟の場合、事故日から起算して保険会社の支払いがあるまで年5%の利息を受け取ることができます。こういった細かい損害費目を立証できるのも、優秀な弁護士ならではです。昨今では総額1億、2億という判例は珍しくないものになってきました。

しかし一見多額の賠償金と見えるかもしれませんが、一生の介護費、リハビリ、治療費、失った将来の労働収入等を考えると実は十分ではないかもしれません。その理由の一端は、利息控除という将来分の逸失利益や介護料などが法定金利5%の複利で利息分を差し引かれるからです。

被害者が若年者ほど控除されています。(3分の1になるケースもあります)これは明治時代の法律が根拠であり、5%で安全に運用できるという前提ですが、いまどきこのような運営は不可能といわざるをえません。

そして、あたりまえのことですが裁判が終了するまで領収書各種記録等の保管は被害者側の義務と考えてください。

苦労は必ず報われます

しかし、たとえそこそこ納得のいく損害賠償金を獲得したとしても、被害者本人は元気なころにはもどりません。介護という大変な作業が待ち受けています。やるだけのことはやったと言える、訴訟活動を目指してください。