第5回勉強会レポート

損害回復のために

「ナナの会」において、平成14年8月31日(土)に交通事故勉強会が開催されました。「損害回復のために」をテーマに、交通事故によって、重度の後遺障害を負った被害者が取るべき行動や心構えについて、当会の北原浩一代表が講義を行いました。

2002年(平成14年)8月31日(土) pm1:00~4:00
神奈川県リハビリテーションセンターにて
講師:北原浩一

1、交通事故は過失犯罪であるという視点を忘れない。

(刑法211条、業務上過失致死傷罪。危険運転致死傷罪。)
交通事故による後遺障害は、加害者による傷害によって引き起こされたという認識を忘れてはならない。 被害者は、病院による不適切治療、病院のたらい回し、詳細な診断書が入手困難など、医療の不備にさらされ、「死人に口なし」同様、被害者が、意識不明に言葉なしのため、警察によって不公平な捜査が行われ、それが法的手段による損害回復を困難なものにしている。

加害者は嘘により事故責任を被害者へ転嫁する傾向があり、知識不足に加え、被害者の立場に立てない弁護士が多いなどが、被害者の損害をさらに大きくしている。

「医療と福祉の谷間」どころか、「交通事故被害者は多くの社会現象の谷間の犠牲者」であり、これを乗り越えない限り、本来の人生回復はできない。

2、損害の回復

元の健常者に戻ることが一番の願いだが、現実は不可能。相手から「賠償」を取ることで経済的に本来の生活を回復し、その後リハビリに専念すべき。当会で支援した青年の判例を見ると、青年の場合、後遺障害等級1級3号は約2億5千万円の損害額になり、3級3号では、約1億8千万円の損害額になる。負い目を持つ就労を考える道だけが人生ではない。賠償金で生活しながら、ボランティアなどの人生もある。

3、事故真実の把握

事故直後から、治療に加え、被害者やその家族が事故真実の把握に努める。警察の捜査は加害者の処罰のためのものであり、被害者の利益回復のためではない(最高裁判例)。

4、事故のすべてを把握している立場の者は

事故の日から現在までの出費、加害者の主張、警察の説明、病状の推移など、最も詳しいのは家族である。被害者は、医者から見ても弁護士から見ても多くの「客」の一人である。積極的に当事者が説明して働きかける必要がある。

5、事例について学ぶ (自賠責保険障害等級が決まれば、損害総額は予測できる)

(1)事故時60才の農家の主婦。自賠責保険併合1級。
損保の提示額は自賠責保険を含み3千2百39万円。
民事訴訟で1億5600万円。
職業介護人介護料日額8,566円(東北の田舎のため安い)。
家族介護料日額6,000円。

(2)事故当時26才の女性(昨年結婚)
自賠責保険併合3級(脳の障害は5級2号)。損保の提示額は自賠責保険を含み
6千180万円。民事訴訟で1億3400万円。家族介護料日額3,500円。

(3)事故時25才の男性(外見は健常者。少しどもる程度)
自賠責保険3級3号。損保の予想提示額は3千万円。
民事訴訟で自賠責保険を含み、裁判所認定総額は1億8千45万円。
家族介護料日額6,000円。

(4)事故当時11才の男児小学生(現在、肢体不自由者の共同作業所へ通所)
昭和62年(1987年)の事故。
加害者(窃盗詐欺罪懲役1年6ヶ月の前科)に自動車保険なし。
自賠責保険併合1級。
被害者宅の車にSAPがかかっていたので、それにより救済される。
民事訴訟で自賠責保険を含み、裁判所認定損害額は2億300万円。
高裁、最高裁全て勝訴。当時は日本一。
職業介護人介護料日額16,800円。家族介護料日額4,500円。

6、事故解決と人生の回復のために

情報を集め、知識を深めることが不可欠。医師に情報(病状)を注入し、良い治療、良い診断書を得る。加害者の厳しい処罰を求めて詳しい捜査資料を残すように努める。これは交通事故を減らすためにも必要。事故時から全て(出費、加害者の話など)につきメモを残す。不法行為(交通事故)による損害の回復は「賠償」。慰謝料がある反面、過失相殺がされる。一方、不法行為を問題にしない場合は「補償」。生命保険の入院給付金など。または福祉による救済など。

通勤災害は雇い主が被害者救済のために掛けるので過失相殺がなく、慰謝料もなし。しかし、年金である。自賠責保険被害者請求を早くする。 給料を取ることだけが人生ではない。生活できればやることは他にもある。孤立を避けるため、いろいろな会に入会し、友人を作り情報入手や励まし合うことも必要。

7、弁護士を選ぶポイント

・交通事故専門と名乗る弁護士が望ましい。 
・自分で取り、判例集に掲載した判例があるか聞いてみる(弁護士の腕が分かる)。 
・カルテが理解できて、被害者の自賠責保険障害等級が予想できること。 
・損害総額が予測説明できること。 
・裁判の準備期間と、裁判期間が予測説明できること。

8、被害者の心構え

医師や弁護士に任せると考えるのは失敗の一歩。積極的に働きかけること。待っていることは惨めな解決になる。自動車保険は福祉保険ではなく、加害者のためのものであり、被害者のためのものではない。示談は譲り合って解決する方法なので、金額は低額になる。